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日産ティアナとアルティマ L33型 日米で別の存在になったわけ
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日産ティアナとアルティマ L33型 日米で別の存在になったわけ

2014年2月、日産の新型セダンが日本市場に投入された。名前はティアナ、型式はL33。北米でアルティマとして発売されたモデルと基本骨格を共有しながら、搭載エンジン・装備・ユーザー層がまったく異なる。同じ鉄板から切り出された2台が、日米それぞれの市場でどう生きたかを解説する。

2014年2月、日産の新型セダンが日本市場に投入された。名前はティアナ、型式はL33。3代目にあたるこのモデルは、約1年半前にアメリカで発売されたアルティマと、基本骨格を共有している。

同じプラットフォーム。同じエンジン型式。ほぼ同じボディサイズ。それでいて、搭載エンジンの構成は違い、装備の重点も違い、購入する人々の層も違う。日本のセダンとしてカタログに並ぶティアナと、北米の量販市場を年間30万台超で支えたアルティマは、同じ鉄板から切り出された車でありながら、まるで別の文脈のなかで生きていた。

日産ティアナ L33型 外観フロント
出典: 日産自動車

日産ティアナ L33型とアルティマ L33型の関係を整理する

L33型は2012年のニューヨークオートショーで世界初公開された。アルティマとして発表されたこのモデルは、北米では同年6月から2013年モデルとして販売を開始した。日本へは遅れること約2年、2014年2月にティアナの名で上陸した。

ボディの実態は共通だ。日産Dプラットフォームを共有し、ホイールベースはほぼ同一(日本仕様2,775mm、米国仕様2,776mm)で、全幅と全高も1mm以内の差に収まる。異なるのは全長で、日本仕様が4,880mmに対し米国仕様は4,859mmと21mmの差がある。バンパーを含むトリム設計の違いによるものと見られるが、骨格としては実質共通と見なせる。

項目ティアナ L33(日本)アルティマ L33(米国)
発売2014年2月2012年6月(2013年モデル)
終売2020年7月2018年8月(L34へ移行)
全長4,880mm4,859mm
全幅1,830mm1,829mm
全高1,470mm1,471mm
ホイールベース2,775mm2,776mm
駆動方式FFFF
プラットフォーム日産Dプラットフォーム日産Dプラットフォーム

プラットフォームはマキシマやムラーノとも共用する日産の基幹設計で、北米市場を起点に開発された経緯を持つ。ティアナはこの北米発の設計を受け取り、日本向けに仕立て直したモデルといえる。

名前が異なる背景には、それぞれの市場での命名史がある。「アルティマ」は1992年から続く北米ブランドで、L33は5代目にあたる。「ティアナ」は2003年に日本向けに設定された名称で、セフィーロとローレルという2つの系統を引き継ぐ形で誕生した。同じ骨格を共有しながらも、それぞれが積み上げてきた市場の文脈が異なる。

日産ティアナ L33型 外観サイド
出典: 日産自動車

日本仕様のティアナが体現した「上質な移動」という価値

日本に来たティアナは、搭載エンジンの選択肢が1種類しかなかった。QR25DE型と呼ばれる2.5リッター直列4気筒で、最高出力は173PS。変速機はエクストロニックCVTのみだ。ハイブリッド設定も存在しない。

前世代のJ32型(2008〜2014年)には、V6エンジン(VQ25DE型)が日本向けにも設定されていた。L33でそれが消えたことに、物足りなさを感じたオーナーがいたことは確かだ。しかし日産がこの世代の日本仕様に込めた価値は、エンジンのスペックではなく、空間の質と静粛性にあった。

コンセプトには「モダンリビング」「おもてなし」という言葉が掲げられた。後席の広さと乗り心地を設計の優先順位の上位に置き、ターゲットは快適性と高級感を求める中高年層と定められた。日産のセダンラインナップにおける立ち位置は、後輪駆動でV6エンジンと7速ATを積む上位のフーガの下に、1.8リッター・FF駆動の下位シルフィの上という配置だ。実用的な中間セダンというより、落ち着きと静粛性を売りにする、一段格の上を意識したポジションだった。

後席のレッグルームは、同クラスの国産セダンのなかでも余裕のある水準に設定されており、オーナー自身が運転するだけでなく、後席に乗客を迎える場面を想定した設計が施されていた。ドア閉まり音の質感や、車内に入り込む風切り音の抑制といった細部も、「乗用車として過ごす時間を豊かにする」という意図で磨かれていた。

日産ティアナ L33型 内装
出典: 日産自動車

アメリカのアルティマ 年間30万台超が示す量販セダンの力

アメリカでのアルティマは、規模が別次元だ。2014年には335,644台が売れた。これはひとつの車種で日本の登録乗用車セダン系全体に匹敵するほどの台数を、1年でさばいた数字である。

直接競合するのはトヨタ・カムリとホンダ・アコードだ。この3車種はアメリカのミドルサイズセダン市場で長年首位争いを演じ、それぞれが年間20〜40万台規模の販売を誇っていた。アルティマはそのなかで実用性とコストパフォーマンスを軸に一定の存在感を保ち続けた。

米国年間販売台数
2013年320,723台
2014年(ピーク)335,644台
2015年333,398台
2016年307,380台
2017年254,996台
2018年209,146台

エンジン選択肢は日本仕様より広かった。標準は2.5リッター直4(182hp、約185PS)だが、3.5リッターV6(270hp)も選べた。同じQR25DE型エンジンでも、日本仕様の173PSに対して米国仕様は182hpと出力が高い。排気ガス規制への対応とチューニングの方向性の違いによるものだ。

アルティマには「働く車」としての顔もあった。高速走行時の燃費効率の高さ、32万km超の耐久実績、後席の広さを理由に、ライドシェアドライバーの間での需要も確かに存在した。「信頼できる実用車」というブランドイメージは、一般購入者だけでなく、業務用途の需要をも取り込む土台になっていた。

アルティマ L33型(米国仕様)がアメリカのフリーウェイを走るイラスト

同じ骨格で、なぜここまで性格が異なるのか

2台の性格を分けたのは、市場の要求の違いだ。

日本では、この時期すでにセダン市場の縮小が進んでいた。SUVとミニバンへの移行が続くなかで、セダンを選ぶ理由を消費者は求めていた。日産はティアナに「静かで落ち着いた乗用車の価値」を担わせることで、特定の層に深く届く設計を選んだ。装備の豪華さや後席の上質感に投資し、他のセダンと差別化する方向に振った。

アメリカでは、ミドルサイズセダンがまだ生活に溶け込んでいた。年間30万台を超える需要を維持するためには、価格帯を広げ、グレードを多く設定し、異なるライフスタイルを持つ購入者に届ける必要があった。V6を選択肢に残したのも、「パワーを求めるファミリー層」という層を取りこぼさないためだ。

エンジン出力の差(日本173PS・米国182hp)は、この設計哲学の違いを象徴する小さな数字だ。同じ型式のエンジンを、それぞれの市場の期待に応じて調整した結果である。

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名前の違いには、もうひとつ別の意味もある。「アルティマ」は北米に向けた量販ブランドとして設計された名前で、どの世代も同じ文脈の延長線上にある。「ティアナ」は日本で磨かれたブランド名で、落ち着きと上質さを印象づける役割を担っていた。同じ骨格を受け取りながら、それぞれが地元のために別の顔を仕立てた。

ティアナが2020年に日本から消えた理由

L33型ティアナは2019年12月に生産を終え、2020年7月に販売が終了した。後継モデルは発表されなかった。

要因は重なっている。

まず、日本のセダン市場がそれ以上の販売台数を維持できなくなっていた。軽自動車、ミニバン、SUVが登録台数を占める構造が固まるなかで、Dセグメントの大型セダンを選ぶ購買層は限られていた。どれほど上質に仕立てても、母数が小さければ事業として維持することは難しい。

次に、日産が2019年度に事業構造改革を進めた。車種数を約69から55に削減する方針のもと、販売台数が伸び悩むモデルが整理された。ティアナはその対象となった。

そして米国では、アルティマが2018年に次世代のL34型へとフルモデルチェンジした。北米での世代交代があったが、日本向けのL33型はそれに対応する更新がないまま生産終了を迎えた。

ティアナが消えたことは、日本のセダン市場が特定の時代背景のもとで持っていた役割が変化したことの記録だ。快適さと上質感を軸にした大型セダンという選択肢が、この市場で求められなくなっていく流れに抗うことは、日産だけでなく多くのメーカーにとって難しかった。2020年以降、日産の国内ラインナップからセダンはスカイラインだけを残して姿を消した。

日産ティアナとアルティマは同じ車なのか

L33型では、ほぼ同一のボディと日産Dプラットフォームを日米で共用している。ホイールベース・全幅・全高は実質同一で、全長のみ21mmの差がある。エンジン選択肢と装備構成は市場ごとに異なる。

なぜ日本ではティアナ、アメリカではアルティマと呼ぶのか

アルティマは1992年から続く北米のブランド名で、L33は5代目にあたる。ティアナは2003年に日本向けに設定された名称で、セフィーロとローレルの後継として位置づけられた。地域ごとに異なる命名の歴史があるため、同じ骨格でも呼び名が分かれている。

ティアナ L33型にV6エンジンは設定されていたか

日本仕様のL33型にV6の設定はない。エンジンはQR25DE型2.5リッター直列4気筒のみだ。前世代のJ32型では日本向けにV6(VQ25DE型)が設定されていたが、L33世代で廃止された。米国仕様のアルティマには3.5リッターV6が引き続き選択可能だった。

アルティマが2014年に記録した年間販売台数は335,644台。同年のアメリカ国内でのミドルサイズセダン上位3車種(カムリ・アコード・アルティマ)だけで、合計100万台を超えた。この3車種の競合が続いた時代、北米のセダン市場はひとつのカテゴリーとして確固たる規模を保っていた。アルティマはその主役の1台として、2016年まで4年連続で年間30万台以上を記録し続けた。