日産エルグランド E50型 初代モデルの全貌と高級ミニバン誕生の歴史
1997年5月に登場した初代エルグランド E50型は、商用バン派生のワンボックス市場に専用設計で乗り込み、「高級ミニバン」というジャンルを事実上生み出したクルマだ。FRレイアウトとセミキャブオーバーボディ、ロイヤルライン・ハイウェイスターといった個性的なグレード群、そして5年間で2度のMCを経たエンジン進化まで、E50型が刻んだ歴史を全解説する。
1997年5月、日産は「最高級新世代1BOX」と銘打ったクルマを世に送り出した。初代エルグランド E50型だ。商用バンの延長線上にあった大型ワンボックス市場を根本から塗り替え、「高級ミニバン」という新しいジャンルを事実上生み出した一台だった。
4代目となるE53型の発売が2026年夏に予定されている。E50型が確立した哲学を振り返るには、ちょうどいいタイミングだ。
エルグランドはなぜ誕生したのか キャラバンからの独立
E50型の前身は、日産が長年販売してきた「キャラバンコーチ」と「ホーミーコーチ」だった。商用ワンボックスバンをベースにした乗用仕様で、当時の大型ミニバン市場の中心を占めていた。走行性能や室内の広さは実用的な水準を満たしていたが、高級サルーンに並ぶ内装品質や、乗用車としての走り味を持つクルマではなかった。
1990年代に入り、国内の乗用車市場は多様化が進んだ。ミニバンに豪華な装備を求める層が生まれ、移動のための道具ではなく、上質な時間を過ごす空間として大型ミニバンを捉え直す需要が高まっていった。この変化に対して、商用バン派生のコーチ仕様では答えを出せなくなっていた。
日産がE50型に設定した目標は明確だった。ボディからシャシー、インテリアまでをゼロから設計した専用モデルを作り、まったく新しいカテゴリを確立することだ。
発売当初、このクルマには2つの車名が存在した。ローレル系ディーラーと日産プリンス沖縄向けに「キャラバンエルグランド」、スカイライン系ディーラー向けに「ホーミーエルグランド」と名付けられ、フロントグリルのエンブレムの色まで赤と青で分けられていた。日産の販売系列制度がそのまま車名に反映された、当時特有の産物だ。
1999年8月の第1回マイナーチェンジで、2つの名前は「エルグランド」に統一された。以降、このクルマは単一の名で呼ばれている。
FRレイアウトという選択 室内空間と走りを両立した設計思想
E50型が当時のミニバンと根本的に異なっていた点のひとつが、駆動方式だ。1990年代後半、ミニバン市場ではFF(前輪駆動)が主流になりつつあった。エンジンを前輪上に横置きして前輪を駆動するFFは、フロアを低くフラットに保ちやすく、室内空間を確保するうえで有利な方式だった。
エルグランドはあえてFR(縦置きエンジン・後輪駆動)を選んだ。縦置きエンジンをボンネット内に収めることで、フロントオーバーハングを短くしたセミキャブオーバー型のボディが成立する。乗用車的なプロポーションを保ちながら、低床フラットフロアを室内に実現できる。走行安定性という面でも、FRはミニバンとしては異色の選択だったが、「クルマとしての上質さ」を追求するには理にかなった答えだった。
発売時に搭載されたエンジンは、VG33E型と呼ぶ3.3リットルV型6気筒の自然吸気ユニットだ。最高出力170ps、最大トルク27.1kgmを発生し、全車4速トルコン式ATが組み合わされた。発売と同時にディーゼルモデルも用意され、3.2リットル直4ターボディーゼルが選択できた。
4輪駆動モデルには「オールモード4×4」と呼ぶ電子制御トルクスプリット式のシステムが設定された。後輪のみで走るFRから前後均等の50対50まで、前後トルク配分を無段階に自動制御する仕組みだ。スカイラインGT-Rに搭載されるATTESA E-TSとは別物の、エルグランドに適したシステムだった。
ボディサイズは全長4,740〜4,775ミリメートル、全幅1,775〜1,800ミリメートル、全高1,940〜1,955ミリメートル。ホイールベースは2,900ミリメートルで、7人乗りまたは8人乗りの定員が設けられた。車両重量は駆動方式とグレードによって1,930〜2,180キログラムの範囲だった。
グレード構成と装備 1997年当時の最高水準
発売時の3グレード体制
1997年5月の発売時、グレード構成はJ・V・Xの3段階だった。最廉価のJは8人乗り、標準のVも8人乗り、最上級のXは7人乗りのキャプテンシートレイアウトを採用した。全グレードにデュアルSRSエアバッグと4チャンネルABSを標準装備し、高級ミニバンとしての安全水準を確保した。
同じ1998年1月、オーテックジャパンが手がけた特別仕様「ロイヤルライン」も設定された。4人乗りに絞り込んだ専用インテリアに本革シート、ツインサンルーフ、木目調の内装パネルを組み合わせた最高級仕様で、移動空間としての極致を追求した一台だった。オートスライドドアやキセノンヘッドランプもオプションで選択できた。いずれも当時の乗用車市場では最上位クラスの装備だった。
後期モデルでは、日産のCarWingsと呼ぶ衛星ナビゲーションシステムの搭載モデルが登場し、フロント&リアラウンドソナーが標準化されるなど、利便性と安全装備が段階的に充実していった。
ハイウェイスターとライダーの登場
1998年1月に同時追加されたもう一つのグレードが「ハイウェイスター」だ。専用デザインのフロントグリルとエアロパーツ、17インチアルミホイール、ローダウンサスペンションを組み合わせ、スポーティな都市型の外観を持つ別の顔を提案した。ロイヤルラインが後席の豪華さを追求したのに対し、ハイウェイスターはドライバーズカーとしての色を持っていた。
1999年10月には、オーテックジャパンが架装を手がけた特別仕様車「ライダー」が発売された。オーテックジャパンは日産のグループ会社で、特別仕様車の開発と架装を専業とする存在だ。ライダーはハイウェイスターをベースに独自の内外装を施したモデルで、E50型の中でも個性的なポジションを持っていた。
ロイヤルライン・ハイウェイスター・ライダーという3つの方向性の存在は、エルグランドが「高級な移動空間」という一本軸だけでなく、ユーザーが選ぶスタイルの幅を持つクルマとして成立していたことを示している。
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2度のマイナーチェンジ エンジンと車名が進化した5年間
E50型は1997年の発売から2002年の生産終了まで、2回のマイナーチェンジを受けた。
1999年8月の第1回MCでは、車名の統一を筆頭に複数の変更が加えられた。「キャラバンエルグランド」と「ホーミーエルグランド」という2つの名前が「エルグランド」に統一され、系列ごとの色分けエンブレムも廃された。エンジン面では、ディーゼルが3.2リットル直4ターボから3.0リットル直4ターボ(ZD30DDTi型)に刷新され、最高出力が150psから170psに、最大トルクが34kgmから36kgmに向上した。電子制御パワーステアリングの採用も同時期の変更だった。
2000年8月の第2回MCはガソリンエンジンの刷新が最大の変更点だ。3.3リットルV6のVG33E型から、3.5リットルV6のVQ35DE型に換装された。最高出力が170psから240psへと70ps増加し、最大トルクも27.1kgmから36kgmへと伸びた。フロントデザインも一新され、よりシャープな印象の外観に改められた。グレード面では最廉価のJグレードが廃止され、Xリミテッドが新設された。APE50というコードで区別されるこの後期型は前期型とは走りの質感が明確に異なり、エンジンの特性から乗り味までひとつ上のステージに達したモデルだと評価されている。
2002年4月に生産が終了し、同年5月には後継のE51型が登場した。
E50型が残したもの 高級ミニバン市場の誕生と次世代への継承
E50型が発売された1997年当時、「高級ミニバン」というジャンルは国内に存在しなかった。エルグランドの登場が、そのジャンルの輪郭を初めて引いた。
月間販売目標5,000台に対し、実際の月販は1万5,000台超を記録した。1998年11月には累計生産台数が10万台を突破し、2002年のE51型登場時点で累計20万台を超えていた。日産グローバルのヘリテージコレクションはE50型の実績を認め、2001年式APWE50を収蔵するとともに「日本の豪華ミニバン時代の牽引役」と評している。
E50型のヒットは市場そのものを動かした。トヨタは2002年にアルファードを投入した。E50型が開いた「高級ミニバン」という市場を狙い打ちにした対抗車で、その後の国内ミニバン市場に新たな競争軸をもたらした。エルグランドが先にいなければ、アルファードも違う文脈で生まれていたかもしれない。
後継モデルの変遷を追うと、E51型はE50型からFRレイアウトを受け継いだ。2010年登場のE52型でFFに移行し、室内空間と操縦性のバランスが再設計された。2026年夏に発売を予定する4代目のE53型は、第3世代e-POWERと全車4輪駆動システムe-4ORCEを搭載し、電動化時代の高級ミニバンとして登場する。
FRというレイアウトはE52型ですでに手放された。搭載するパワートレインの形も変わり続けている。それでもE50型が1997年5月に掲げた「専用設計の高級ミニバンを作る」という姿勢は、世代をまたいで受け継がれている。エルグランドというクルマの芯は、そこにある。
E50型が発売された1997年は、日産が経営再建前夜の時代だった。1999年にルノーとの資本提携が成立し、カルロス・ゴーンが来日して大規模なリストラを断行したのは約2年後のことだ。そうした経営危機の足音が聞こえ始めていた時期に登場したE50型が、「月販1万5,000台超」というヒットを記録したことは、開発陣の読みが市場に正しく届いた証でもある。
キャラバンエルグランドとエルグランドは別のクルマか
同じクルマだ。1997年5月の発売当初、日産の販売系列ごとにローレル系ディーラー向けの「キャラバンエルグランド」とスカイライン系ディーラー向けの「ホーミーエルグランド」という2つの名前が使われていた。1999年8月のマイナーチェンジで「エルグランド」に統一されている。
初代エルグランドがFRを採用した理由は何か
縦置きエンジンをボンネット内に収めるFRレイアウトにより、フロントオーバーハングを短くしたセミキャブオーバー型ボディと、低床フラットフロアを同時に実現するためだ。当時主流のFFでも室内の床を低くすることは可能だが、E50型はFRによって乗用車的なプロポーションと広大な室内空間の両立を選んだ。
E50型の4WDシステムはATTESA E-TSか
異なるシステムだ。E50型の4WDは「オールモード4×4」という電子制御トルクスプリット式の仕組みで、前後トルク配分をFR(後輪100%)から50対50まで無段階に制御する。ATTESA E-TSはスカイラインGT-Rなどのパフォーマンスモデルに採用された別のシステムであり、E50型には搭載されていない。


