JAS「Tensei」初代NSXの魂を継ぐ新型スーパーカー
ホンダの公式パートナーとして30年以上の実績を持つJAS Motorsportが、初代NSXをベースにした新型スーパーカー「Tensei」を開発中。生産35台限定、2026年下半期ローンチ予定だが、価格と出力はいまだ非公開だ。
2025年7月、ホンダの公式レーシングパートナーとして30年以上の歴史を持つイタリアのJAS Motorsportが、自社ブランド初のロードカーを開発すると発表した。以来およそ1年をかけて情報が段階的に明かされてきたこのプロジェクトは、2025年12月に車名が「Tensei」であることが判明し、2026年6月には北米での正規販売網も整った。ベースとなるのは、初代ホンダNSXだ。
レース屋が手がける初代NSXの再解釈というだけで、多くのファンの記憶を揺さぶるには十分だろう。しかし2026年7月1日時点でも、最高出力や価格といった核心的な数字は公式に発表されていない。分かっていることと、まだ分かっていないこと。その両方を整理しながら、このプロジェクトの意味を読み解く。
JAS Motorsportとは何者か ホンダと歩んだ30年
JAS Motorsportは1995年9月1日、パオロ・ジャッソン、マウリツィオ・アンブロゲッティ、ジョルジョ・ションという3人によってミラノで設立された。社名は3人の頭文字に由来する。技術・運営面を任されたのは、当時F1チームのミナルディでエンジニアを務めていたアレッサンドロ・マリアーニだ。現在も同社のCEOを務める。1996年の国際ツーリングカー選手権(ITC)にアルファロメオ155で参戦したのが、チームとしての実質的なデビューだ。開幕戦のドイツ・ホッケンハイムでは3台のマシンが炎上するという厳しい船出だったが、わずか8週間後にはドイツ・ノリスリンクで初表彰台を獲得し、イギリスのシルバーストーンでの初勝利がマルティーニのスポンサー契約につながった。
1998年からはホンダの公式パートナーとなり、シャシー開発と車両製造を担う立場でモータースポーツに関わり続けてきた。ワールドツーリングカー選手権(WTCC)では2013年に製造者ワールドチャンピオンを獲得し、2017年には最多ポールポジションと優勝を記録している。ホンダ・シビック タイプRのTCR仕様では2015年以降17の主要タイトルと600以上のレース優勝を積み重ね、2019年、2020年、2024年にはTCR年間最優秀車両賞を受賞した。NSX GT3 Evoでも8つのタイトルを獲得している。
つまりJAS Motorsportは、ホンダ車を作る側として30年間支え続けてきた企業だ。その会社が初めて自社ブランドの市販車に挑む。しかもベースに選んだのが、ホンダの歴史でもっとも「操る喜び」を体現したとされる初代NSXだった。

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「転生」に込められた初代NSXへのオマージュ
2025年12月2日、JAS Motorsportはこのプロジェクトの車名が「Tensei」であると発表した。日本語の「転生」を意味するという。これに先立つ同年10月27日の発表では、初代ホンダNSXをベースにした派生モデルであり、グランドツーリング文化の現代的解釈を目指すことがすでに明かされていた。JAS Motorsportはこの名前について、初代NSXのDNAに基づいた超近代的なスーパーカーの再解釈であり、初代をアイコンたらしめた特徴に忠実であり続けるプロジェクト哲学を体現していると説明している。
車名の世界初披露は、これに先立つ2025年11月、静岡県の富士スピードウェイで行われた。アジア地域の販売パートナーが主催したイベントで、選定された顧客だけに向けたお披露目だった。一般への発表はその翌月に行われている。
初代ホンダNSXは1989年にアメリカのシカゴオートショーで発表され、1990年から2006年まで生産された。量産車として世界で初めて全アルミニウム製のセミモノコック構造を採用し、当時F1で3度の世界チャンピオンだったアイルトン・セナの意見が最終開発段階に反映されたことでも知られる。生産台数は2万台に満たない希少なモデルで、中古車市場でも高い人気を保っている。JAS Motorsportが「転生」という言葉に込めたのは、この希少な初代を懐かしむだけでなく、現代の技術で走らせ直すという意志だろう。

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ピニンファリーナが手がけるカーボンボディと、判明している仕様
Tenseiのデザインを手がけるのは、イタリアの自動車デザイン工房であるカロッツェリアの中でも、伝説的な存在のピニンファリーナだ。JASは2025年7月の発表で、そのデザインの方向性を「出自と特徴的な外観に敬意を払いながら、最先端の構造技術を纏うシャシーに現代的なスタイリングを与える」ものだと説明している。ボディとインテリアはフルカーボンファイバー製となる。2026年4月24日から26日にかけて開催された第15回モナコ・ヒストリック・グランプリでは、内装や張地、ホイールリムの最新アップデートと1:5スケールモデルが公開されており、開発は最終段階に向けて進んでいる様子がうかがえる。
パワートレインの土台となるのは、初代NSXの自然吸気V6エンジンだ。ただし手を加えないわけではない。2026年3月2日、JAS Motorsportはエンジン開発をJudd Powerが担当すると発表した。Judd Powerはイギリスのエンジン専業メーカーで、F1やル・マン向けのレーシングエンジンを手がけてきた実績を持つ。今回のプロジェクトでは、初代NSXのエンジンを完全に組み直し、適性確認と軽量化、高度な技術アップグレードを施したうえで、性能測定装置であるダイナモに実機をかけて出力特性を検証・較正するという。排気量は初代の3.0〜3.2リットルから3.5リットルへと拡大される。Judd Powerのディレクターであるジョン・ジャッドJr.は「90年代のアイコンであるNSXに我々のエンジン知見を応用し、現代においてもクラスの羨望の的となる性能と操縦性を作り出すことを楽しみにしている」と語っている。組み合わされるのは6速マニュアルで、左右どちらのハンドル配置にも対応する。
最高出力やトルクの具体的な数値は、本稿執筆時点でまだ公表されていない。初代のエンジンを土台にどこまで引き上げるのか、という一点が、このプロジェクトの核心でありながら、いまだ明かされていない部分でもある。
価格・生産台数・発売時期は今どうなっているか
生産台数は限定35台。2026年6月23日には北米での正規販売パートナーとして、アメリカにGraham Rahal Performance、カナダにPfaff Reserveが任命されたことが発表された。COO(最高執行責任者)のマッズ・フィッシャーは、両社が優れた顧客サービスと細部への配慮を重視している点がこのプロジェクトに適していると述べている。
Graham Rahal Performanceの創業者であるグラハム・ラハールは、インディカーで複数の優勝経験を持ち、デイトナ24時間レースも制した現役ドライバーだ。発表に寄せたコメントで「NSXは常に私の家族にとって特別な存在だった。父は初代NSXの開発に関わり、私自身も2代目の開発に関わる機会を得た」と語っている。父はインディカーの名ドライバーであるボビー・ラハールで、初代NSXの開発に携わった人物の一人だという。レース一家とNSXの縁が、そのままTenseiの販売網に引き継がれた形になる。
アジア地域では2025年11月6日、香港を拠点にパガーニやガンサー・ワークスなどの正規ディーラーを務めるSPS Automotive Performance Hong Kongが販売パートナーに任命された。
公式ローンチは2026年下半期を予定しているという。ただし価格については、これまでの一連の発表のどこにも記載がない。生産拠点はミラノ近郊アルーノのJAS Motorsport本社で、完成後にトラックと路上でのテストを経て顧客に納車される計画だ。
なぜレース屋がNSXを選んだのか
Tenseiが特別なのは、デザインハウスやチューナーではなく、30年間ホンダのレースカーを作り続けてきた会社が手がけているという点だ。WTCCでチャンピオンを獲れる技術力を持つ企業が、量産の外にある1台を仕立てるとき、そこにはレースで培った理屈が持ち込まれる。エンジンの軽量化と較正をレース用エンジンメーカーに委ね、デザインを専門のカロッツェリアに委ねるという分業体制も、JAS Motorsportが作ることのプロであり続けてきたことの表れだろう。
初代NSXが目指したのは、スーパーカーの性能を誰もが日常的に操れる形に落とし込むことだった。Tenseiがその哲学をどこまで現代に引き継げるかは、まだ公表されていない最高出力の数字が明かされたときに、初めて答え合わせができる。
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JAS Tenseiとはどんなクルマか
JAS Motorsportが自社ブランドとして初めて手がけるロードカーで、初代ホンダNSXをベースに、ピニンファリーナがデザインしたカーボンファイバーボディをまとう。生産台数は限定35台の予定だ。
JAS Tenseiの価格や発売時期は決まっているか
価格は2026年7月1日時点で公式に発表されていない。発売時期は2026年下半期のローンチが予定されている。
JAS Motorsportとはどんな会社か
1995年に設立されたイタリア・ミラノの企業で、1998年からホンダの公式レーシングパートナーとして、WTCCやTCR、NSX GT3などでシャシー開発と車両製造を担ってきた。
Tenseiのエンジン開発を担当するJudd Powerは、正式名称をエンジン・ディベロップメンツ社(Engine Developments Ltd)という英国企業のブランド名だ。1971年、イギリス・ウォリックシャー州ラグビーで、のちにF1で3度の世界チャンピオンに輝くジャック・ブラバムとジョン・ジャッドが共同で設立した。1988年から1992年にかけて自らF1にも参戦し、76戦にエントリーして68戦でスタートを切り、8回の表彰台を獲得している。レースの現場で鍛えられたエンジンメーカーが、レース屋であるJAS Motorsportの依頼で初代NSXのV6を磨き直すという組み合わせは、両社の生い立ちを知るとより腑に落ちる。



