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MAZDA3ファストバックのデザインを読む 後方視界と魂動の意図
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MAZDA3ファストバックのデザインを読む 後方視界と魂動の意図

BP型MAZDA3ファストバックは後方視界が悪いと言われる。事実、設計した側も認めている。だが覚悟を持って選んだのだ。2019年のBP型以降に始まった「引き算の美学」が何を意味するのか、デザインの意図を読み解く。

SNSで「後方視界が悪い」という声が上がるとき、MAZDA3ファストバックの話題であることが多い。事実、そうだ。設計した側も認めている。

では、なぜマツダはそのクルマを世に出したのか。欠点を抱えたまま出したのではない。覚悟を持って選んだのだ。

2019年5月24日に発売されたBP型MAZDA3ファストバック。このクルマを理解するには、視界の話だけでは足りない。デザインに込められた意志から読み解く必要がある。

MAZDA3 FASTBACK 外観(2019年)
出典: マツダ株式会社

BP型MAZDA3ファストバックが選んだシルエット

2019年5月24日、マツダは4代目となるBP型MAZDA3を発売した。セダンとファストバックの2ボディを展開し、ファストバックには公式のデザインコンセプトとして「色気のある塊」という言葉が与えられた。

全長4,460mm、全幅1,795mm、全高1,440mm。数字だけを見れば、ごく一般的なCセグメントの寸法だ。しかしファストバックのシルエットは、その数字からは想像できないほどの緊張感を持つ。低く傾斜したルーフラインが後方へ向かって流れ落ち、分厚いCピラーへと結ばれていく。

この形は偶然ではない。対するセダンのデザインコンセプトが「凛とした伸びやかさ」であるのに対し、ファストバックはその対極に立つ。同じプラットフォームを使いながら、2つのボディがまったく異なる情動に訴えかける設計になっている。

MAZDA3 FASTBACK 外観(サイドビュー)
出典: マツダ株式会社

魂動デザインが向かった先 「引き算の美学」の意味

MAZDA3の登場以前、魂動デザインはシャープなキャラクターラインを武器にしていた。初代CX-5やアテンザに採用された鋭い線は、いかにも「動き出しそうなクルマ」を演出する手法だった。

BP型MAZDA3はその手法を捨てた。マツダが「引き算の美学」と呼ぶアプローチに転換し、従来の自動車デザインに用いられてきたキャラクターラインをボディから排除した。代わりに選んだのは、光の移ろいだ。

平らに見えて、実は微妙な曲面を持つボディパネル。太陽の位置が変わるたびに、陰影の稜線が動く。日本庭園における借景のような仕掛けで、周囲の景色をボディに引き込むことでクルマに生命感を与える。マツダは発売時のプレスリリースで「不要な要素を削ぎ落し、滑らかなボディの面を走る繊細な光の移ろいによって豊かな生命感を表現する」と記している。

この方法論はMAZDA3から始まり、その後のマツダ車に継承されている。BP型MAZDA3ファストバックは、そのデザイン転換の出発点に立つ。

後方視界を削って得たもの

ファストバックの後方視界が悪いのは、設計の結果として避けられなかった問題ではない。そう選択した結果だ。

低く寝かせたルーフラインは、後部ガラスの面積を必然的に絞り込む。傾斜角の大きいリアウィンドウと、視覚的な緊張感の源であるCピラーの組み合わせが、斜め後方の視界を狭める。発売当時、マツダの担当者が「斜め後方を含む後方視界は、正直、従来型より悪くなった」と認めた発言が複数の自動車メディアに伝えられている。

ただ、この認識に対してマツダが何もしなかったわけではない。視界が狭まった分、別の手段で安全を確保しようとした。サイドミラーはフレームを薄くし、取り付け角度を調整して視野角を広げる設計になっており、前型と同程度の時間で安全確認ができるよう工夫されている。多くのグレードにバックガイドモニターを設定し、上級グレードには360°ビュー・モニターも用意した。

このCピラーの処理は、専門家の目から見ても高い難度を持つ。一般的なCセグメント車では、Cピラーとその下の造形との接合部が凹んだ形になりやすい。MAZDA3のファストバックは、この接合部を浅い角度と大きな曲率半径でつなぎ、Cピラーからリアフェンダーへの膨らみをひとつの面として見せている。抑えた造形に見えるが、技術的には容易ではない選択だ。

後方視界を犠牲にした。その事実は正直に受け止めるべきだ。一方で、その代償として何を手に入れたかも等しく問われる。走行中に視線を引く、張り感のあるシルエット。停車中も遠くから目を引く、彫刻のような佇まい。それが「色気のある塊」という言葉の実体だ。

MAZDA3 FASTBACK リアビュー
出典: マツダ株式会社

細部で読むデザイン言語

ファストバックのデザインを語るとき、後ろ姿だけを切り取るのは正確ではない。前から後ろまで、一貫した意図の連続がある。

フロントは水平方向の広がりを強調するグリルとフードのラインで構成されており、ファストバックの低重心感を先読みさせる。サイドはキャラクターラインが廃止されているため、光が当たる角度によって見え方が大きく変わる。同じクルマが、曇りの日と晴れの日とでは異なる表情を持つ。

シグネチャーウイングと呼ばれるヘッドライト周辺の造形には、発売当初はファストバックにのみダークメタリック塗装が施されており、クロームメッキ仕上げのセダンと視覚的に差別化されていた。フロントのデザインだけを見ても、ファストバックとセダンが別々の情動を持つクルマとして設計されていることが伝わってくる。

インテリアも同じ哲学を踏襲している。水平基調のインパネは視覚的な広がりを与え、各操作系の配置はドライバーの手が自然に届く位置に整理されている。2023年4月の商品改良でセンターディスプレイが10.25インチに大型化され、情報量と操作性の両立が図られた。Cセグメントとは思えない質感が内装にも宿る。装飾を加えるのではなく削ぎ落すという設計方針が、こうした評価を生んでいる。

MAZDA3 インテリア
出典: マツダ株式会社

世界が評価した選択

2020年4月、MAZDA3はワールド・カー・デザイン・オブ・ザ・イヤーを受賞した。25か国超の自動車ジャーナリスト86名の投票によって決定されるこの賞で、マツダにとって2016年のロードスター以来2度目の受賞だった。

後方視界の問題はあった。実用性よりもデザインを優先したという見方も出た。それでも、デザインの世界はこのクルマの選択を評価した。削ることで何かを得るという、相反する命題に正面から向き合い、答えを出したからだ。

MAZDA3ファストバックは、量産車に何ができるかという問いへの、一つの誠実な回答だ。後方視界が広くないという事実は変わらない。だが、そのクルマが問い続けるのは、視界の広さだけがクルマの価値ではないということだ。それが賛否を呼び、それが長く語り継がれる理由でもある。

MAZDA3ファストバックの後方視界はなぜ悪いのか?

ファストバック特有の低く傾斜したルーフラインと、視覚的な緊張感を生む分厚いCピラーの組み合わせが原因だ。リアウィンドウの面積が必然的に絞られ、斜め後方の視界が狭まる。マツダは多くのグレードにバックガイドモニター(バックカメラ)を設定し、上級グレードには360°ビュー・モニターを用意することで安全性を補完している。

魂動デザインの「引き算の美学」とは何か?

マツダが2019年のMAZDA3から採用したデザインアプローチだ。それ以前の魂動デザインはシャープなキャラクターラインで躍動感を演出していたが、「引き算の美学」ではキャラクターラインを廃止した。代わりに、微妙な曲面を持つボディパネルが光を受けて動的な陰影を生む方法で生命感を表現する。

セダンとファストバック、どちらが後方視界がよいか?

セダンのほうが後方視界はよい。ファストバックの傾斜したルーフラインとCピラーの造形に対し、セダンはより立ったリアウィンドウを持つ。後方視界を重視するならセダン、デザインの彫刻的な表情を優先するならファストバックという選択が明確になる。