インフィニティ QX65 スペック・価格——FX後継のファストバックSUV
インフィニティが5年ぶりの新型車QX65を米国で発表した。2003年にBMW X6より5年早くクーペSUVを提案した初代FXの血統を継ぐファストバックSUVで、世界初の量産可変圧縮比エンジンVCターボを搭載。価格は約810万円から。
インフィニティが、ファストバックSUV「QX65」を米国で発表した。インフィニティとして5年ぶりの完全新型車であり、2017年に生産を終了したQX70以来、約9年ぶりに「FXスタイル」が復活する。価格は53,990ドル(約810万円)から。2026年初夏に北米で販売を開始する。
9年の空白を経て蘇るFXの輪郭
QX65の外観で真っ先に目を引くのは、大きく弧を描くルーフラインだ。リアに向かって流れ落ちるファストバックのシルエットは、2003年に登場した初代FXのデザインDNAを色濃く受け継いでいる。
フロントには、嵐に揺れる竹林をモチーフにした立体的な3Dグリルを配置した。フルワイドのLEDヘッドランプは「デジタルピアノキー」と呼ばれる意匠で、車両に近づくとウェルカムアニメーションが起動する。リアは航空機の垂直尾翼から着想を得た縦基調のエレメントを持つフルワイドLEDテールランプで締める。
新色のサンファイアレッドは、本物の金をコーティングしたガラスフレークを配合し、3層の塗装プロセスで仕上げた特別な色だ。光の当たり方で表情が変わる。
和の感性が宿るインテリア
室内には2つの12.3インチディスプレイを水平に配置し、Google MapsやGoogle Assistantに対応したGoogleビルトインのインフォテインメントシステムを標準装備する。ワイヤレスのApple CarPlayとAndroid Autoにも対応した。
上級グレードのAUTOGRAPHでは、着物の合わせに着想を得た非対称のキルティングをセミアニリンレザーシートに施している。ダッシュボードにもキルティング加工を採用し、オープンポアのウッド調アクセントと組み合わせた。
アンビエントライトは64色から選択でき、日本の四季をテーマにしたプリセットも用意されている。竹林のグリル、着物のキルティング、四季のアンビエントライト。QX65のデザインには和の感性が随所に織り込まれている。
オーディオはアメリカの老舗音響メーカー、クリプシュとの協業だ。SPORTグレードに16スピーカーの600Wシステム、AUTOGRAPHグレードには20スピーカーの1,200Wシステムを搭載する。AUTOGRAPHにはヘッドレスト内蔵スピーカーによる「インディビジュアルオーディオ」機能も備わり、同乗者に影響を与えずに自分だけの音場を楽しめる。
VCターボ——20年かけて実現した「圧縮比を変える」技術
心臓部には日産が世界で初めて量産化した可変圧縮比エンジン、VCターボを搭載する。型式はKR20DDET。2.0L直列4気筒ターボで、268PS、387Nmを発生する。組み合わせるのは9速ATで、駆動方式は全車インテリジェントAWDだ。
VCターボの核心は、圧縮比を8:1から14:1まで連続的に変化させるマルチリンク機構にある。高出力が必要な場面では圧縮比を下げてノッキングを防ぎ、巡航時には圧縮比を上げて熱効率を高める。通常のエンジンでは固定されている圧縮比を、走行状況に応じてリアルタイムで最適化する。
日産が可変圧縮比の研究を始めたのは1998年。量産化までに約20年を要し、100基以上の試作エンジンと300件以上の特許が積み上げられた。2019年モデルのインフィニティQX50で世界初の量産搭載を果たし、同年のWards 10 Best Enginesにも選出されている。
副次的な効果も見逃せない。マルチリンク機構によりピストンが滑らかな軌跡を描くため、通常の直列4気筒に必須のバランサーシャフトが不要になった。エンジン内部の摩擦抵抗を減らす効果もある。
牽引能力は最大6,000ポンド(約2,722kg)。4気筒とは思えない数値だ。
なお、Automotive Newsの報道によると、2027年夏にはVQ35型3.5L V6エンジン搭載モデルの追加が計画されている。出力は約300PSで、高性能版「レッドスポーツ」への布石ともされる。この情報は公式発表ではない点に留意が必要だ。
FXが切り拓いた道、QX65が継ぐもの
インフィニティFXは、クーペSUVという市場を事実上つくったクルマだ。
2003年、初代FX45がVK45DE型4.5L V8エンジンを搭載して北米に登場した。315PS(後期型は320PS)のV8をSUVのボディに収め、「バイオニック・チーター」のデザインコンセプトのもと、獲物に跳びかかる直前のチーターの筋肉質な姿をシルエットに落とし込んだ。
エクステリアのリードデザイナーを務めたのは小室秀夫氏。インテリアデザイナーの倉俣史朗氏からインスピレーションを受け、SUVの重厚な下半身とスポーツクーペの流麗な上半身を融合する「クール・フュージョン」の思想でFXを描いた。中村史郎デザイン担当シニアバイスプレジデントの指揮下で生まれたこのデザインは、後に続くクーペSUVの原型となる。
BMWが「SAC(スポーツ・アクティビティ・クーペ)」と銘打ったX6を発表したのは、FXの登場から5年後の2008年だ。
2代目FX(S51型、2009年〜)ではVK50VE型5.0L V8で390PSに到達。2014年にインフィニティの命名規則変更に伴いQX70に改称されたが、車両の基本は同一だった。そして2017年、QX70は生産を終了する。
それから約9年。QX65はエンジンこそ4気筒ターボに変わったが、ファストバックの血統はしっかりと受け継いでいる。
競合と価格——300万円以上安い挑戦者
QX65のベース価格53,990ドル(約810万円)は、同セグメントの競合に対して際立って攻めた設定だ。
| モデル | ベース価格 | エンジン | 出力 |
|---|---|---|---|
| インフィニティ QX65 | 53,990ドル(約810万円) | 2.0L I4 VCターボ | 268PS |
| BMW X6 xDrive40i | 75,100ドル(約1,127万円) | 3.0L I6ターボ+MHEV | 375PS |
| アウディ Q8 Premium | 75,600ドル(約1,134万円) | 3.0L V6ターボ+48V | 335PS |
| メルセデス・ベンツ GLE 450 クーペ | 78,500ドル(約1,178万円) | 3.0L I6ターボ+ISG | 375PS |
| ジェネシス GV80 クーペ 3.5T | 81,850ドル(約1,228万円) | 3.5L V6ツインターボ | 375PS |
競合より21,000〜28,000ドル(約315〜420万円)安い。ただし出力は268PSと、6気筒の335〜375PSに対して見劣りする。V6モデルの追加が実現すれば、スペック面でも距離は縮まる。
5年ぶりの一手が示すもの
インフィニティはこの5年間、新型車を1台も出せなかった。日産本体の経営再建と重なり、ブランドの存在感は薄れていた。
その沈黙を破る1台として選ばれたのが、かつてFXで開拓したファストバックSUVだった。発表の舞台にニューヨークのグランドセントラル駅を選び、NFLのスター選手であるロブ・グロンコウスキーとジュリアン・エデルマンをホストに迎えた演出からも、インフィニティがこの1台に懸ける意気込みが伝わる。
現時点でQX65の日本導入は発表されていない。テネシー州スマーナ工場で生産され、販売は北米市場に限られる。しかし、VCターボも和のデザインモチーフも、日産が持つ技術と文化の結晶だ。その行方を見守りたい一台だ。
主要スペック
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| モデルイヤー | 2027年 |
| ボディタイプ | ファストバックSUV(2列シート) |
| エンジン | KR20DDET 2.0L 直列4気筒 VCターボ |
| 最高出力 | 268PS |
| 最大トルク | 387Nm |
| トランスミッション | 9速AT |
| 駆動方式 | インテリジェントAWD(全車標準) |
| 牽引能力 | 約2,722kg |
| 荷室容量 | 2列目後方 1,014L / 1列目後方 1,917L |
| オーディオ | Klipsch 16スピーカー 600W(SPORT)/ 20スピーカー 1,200W(AUTOGRAPH) |
| 安全装備 | ProPILOT Assist(標準)/ ProPILOT Assist 2.1 ハンズオフ走行対応(AUTOGRAPH) |
| 価格 | 53,990ドル〜(約810万円〜) |
| 生産拠点 | テネシー州スマーナ工場 |
| 発売時期 | 2026年初夏(北米) |


