アイサイト 歴代バージョン完全解説 ver.1から3眼カメラまで
2008年に量産化されたスバルの運転支援技術「アイサイト」。ステレオカメラ1本勝負で始まり、2022年には世界累計500万台を達成するまでの進化を、初代から3眼カメラ搭載世代まで全バージョンで追う。
運転席の前方、バックミラーの根元に収まった2つの小さなレンズ。これだけで、クルマは「見て」「判断して」「止まる」。アイサイトはそういうシステムだ。2008年に日本国内で量産化され、2022年には世界累計販売500万台を達成したスバルの運転支援技術が、どのような経緯をたどって現在の姿になったのかを、世代ごとに追う。
ステレオカメラ1本勝負 スバルがレーダーを選ばなかった理由
スバルがアイサイトに採用したのは「ステレオカメラ」という方式だ。2つのカメラが同じ場面をわずかにずれた角度で捉え、その視差から対象物までの距離を三次元的に計算する。人間の両目と同じ原理である。
この方式の強みは「何がそこにあるか」を識別できる点にある。ミリ波レーダーは距離の測定精度に優れているが、反射強度をもとに検知するため、歩行者や自転車といった小さな対象の識別は苦手だ。ステレオカメラは画像として認識するため、歩行者・自転車・信号機の区別をつけられる。スバルはこの「見る力」を自動ブレーキの根幹に置いた。
ただしカメラには弱点もある。濃い霧や大雨では認識性能が落ちる。2020年の新世代アイサイトではミリ波レーダーを前後左右4基追加し、両方の長所を組み合わせるハイブリッド構成に進化した。それでもステレオカメラが主役の位置づけは変わっていない。
スバルがこの方式を選び続けた背景には、長い研究の歴史がある。ステレオカメラの開発を始めたのは1989年のことだ。アイサイトが市場に出る約20年前から、スバルはこの技術に向き合い続けていた。
アイサイト誕生前夜 ADAという実験台
2008年のアイサイトは、突然生まれたわけではない。前身となるシステム「ADA(アクティブ・ドライビング・アシスト)」がある。
ADAの初代が登場したのは1999年のことで、レガシィランカスターに搭載された。ステレオカメラで前方を認識し、車間距離制御クルーズコントロール・車線逸脱警報・カーブ前警報といった機能を実現した。2003年には第3世代へ進化し、ミリ波レーダーも組み合わせた構成になった。2006年にはレーザーレーダー専用のSI-Cruiseという派生システムも登場している。
この約10年の試行錯誤がなければ、2008年のアイサイトはなかった。世界初となる「ステレオカメラだけで自動ブレーキを実現したシステム」は、ADA時代の積み上げの延長線上に立っている。
歴代バージョンを振り返る 初代から最新世代まで
ver.1(2008年)「ステレオカメラで止まる」の宣言
2008年5月、アイサイトは4代目レガシィと共に世に出た。前方約90mまでを認識し、障害物があれば自動でブレーキをかけるプリクラッシュブレーキと、前車との距離を保ちながら速度を自動調整する全車速追従機能付きクルーズコントロールを備えていた。
「ステレオカメラのみ」で自動ブレーキと全車速追従の両方を実現したのは、世界で初めてのことだった。センサーはカメラだけ。それでも止まる、という意志が初代の存在意義だった。
ver.2(2010年)「ぶつからないクルマ」の誕生
2010年5月のver.2では、自動ブレーキの能力が大きく向上した。相対速度30km/h未満であれば完全停止まで対応するようになり、最大減速度は約0.4Gに達した。渋滞中の停車後は2分間の停車維持機能も追加された。
このタイミングで生まれたキャッチコピーが「ぶつからないクルマ」だ。インプレッサ・XV・フォレスターなど搭載車種も拡大し、アイサイトの名前が広く知られるようになった。搭載車種を急速に拡大したことで、アイサイトはスバルを代表する技術として定着した。
ver.3(2013年〜)カメラがカラーになった日
2013年10月に発表されたver.3は、ハードウェアから作り直したバージョンだ。撮像素子がモノクロのCCDからカラーのCMOSに変更され、視野角と検知距離がver.2比で40%拡大した。初採用はレヴォーグだった。
カラー化によって新たにできるようになったことがある。前走車のブレーキランプの点灯を認識できるようになった。「前のクルマがブレーキを踏んだ」とわかれば、より早く減速の準備ができる。対応する相対速度は50km/hまで拡大し、アクティブレーンキープ・信号認識・AT誤後進抑制・プリクラッシュステアリングなど機能の幅も広がった。作動速度域は約0〜160km/hに達した。
ツーリングアシスト(2017年)ハンドルを支える時代へ
2017年6月、アイサイトはひとつの壁を越えた。レヴォーグとWRX S4に搭載された「ツーリングアシスト」が加わり、アクセル・ブレーキだけでなく、ステアリングの自動制御を0km/hから行えるようになった。
それまでの車線中央維持機能は約60km/h以上での作動に限られていた。ツーリングアシストはこれを0km/hまで拡大し、渋滞中の極低速域でも車線中央をキープする。前走車との距離を保ちながら追従操舵するこの機能は、長距離・渋滞走行での疲労軽減に直結した。作動範囲は0〜約120km/hで、区画線の認識と先行車の追従操舵を組み合わせることで、さまざまな路面状況で安定した制御を実現している。
新世代アイサイト(2020年)360度の目
2020年の2代目レヴォーグで採用された新世代アイサイトは、センサー構成が根本から変わった。広角化された新開発のステレオカメラに加え、前後左右4基のミリ波レーダーが加わり、360度のセンシングを実現した。電動ブレーキブースターの採用により制動の精度も向上している。
カメラの解像度は1.2メガピクセルから2.3メガピクセルへ約2倍に向上した。新たに加わった機能の中でも注目すべきは、前側方からの衝突リスクに対応するプリクラッシュブレーキだ。従来の正面衝突への対応から一歩進み、斜め方向から接近する車両に対しても自動ブレーキが働く。回避が困難な状況では、緊急時プリクラッシュステアリングでハンドルを自動操舵する機能も追加された。
アイサイトX(2020年)地図と衛星が加わった
同じ2020年に登場したアイサイトXは、新世代アイサイトに3D高精度地図と測位衛星を組み合わせた上位システムだ。準天頂衛星「みちびき」を活用したGPSと3D高精度地図データにより、車線単位で道路情報を把握できる。
できることが一気に増えた。渋滞時に0〜50km/hでハンドルから手を離して走行できるハンズオフアシスト、約70〜120km/hでの車線変更支援となるアクティブレーンチェンジアシスト、カーブ手前や料金所手前での自動減速、さらにはドライバーが異常を起こした際の緊急停止まで対応する。表示には12.3インチのフル液晶メーターが用いられ、情報の可視性も刷新された。
3眼カメラ(2023年〜)さらに広くなった視野
2023年、クロストレックの国内発売とともに国内初となる「3眼カメラ」構成が採用された。従来のステレオカメラに広角単眼カメラが追加され、視野角は128度と従来比で約2倍に広がった。
ステレオカメラが距離精度に優れるのに対し、広角単眼カメラは広い範囲を一度に捉える。この2種類のカメラを組み合わせることで、斜め方向や側方から飛び出してくる歩行者・自転車への対応力が向上した。2024年時点ではフォレスターとBRZが従来の2眼構成を維持しているが、多くの車種は3眼化されている。
MT車向けアイサイト(2023年)スポーツカーにも届いた
2023年6月、スバルはMT車向けのアイサイトを開発し、同年秋に発売するBRZ改良モデルへの採用を発表した。
AT車向けのシステムをベースに、MT車特有の操作パターンに対して制御が過剰介入しないよう専用の調整が施されている。プリクラッシュブレーキ・追従付きクルーズコントロール・車線逸脱警報・後方ソナー警報を主機能として備える。スポーツカーの楽しさと衝突被害軽減の両立を目指した搭載だ。
数字で見るアイサイトの効果 事故低減データが示すもの
技術の進化が実際に何をもたらしたか、スバルは数字で示している。
2010〜2014年に販売したアイサイト搭載車(約24万6,000台)と非搭載車(約4万8,000台)を比較した調査では、車両同士の追突事故件数が搭載車で約8割少なかった。この数値は公益財団法人交通事故総合分析センターのデータをもとにスバルが算出したものだ。対歩行者事故でも約5割の低減が確認されている。
世代ごとの追突事故発生率も公表されている。ver.2搭載車(2010〜2014年モデル)で0.09%だったのに対し、ver.3搭載車(2014〜2018年モデル)では0.06%に下がった。カメラがカラー化され、視野角が40%拡大したver.3が、数字としての改善をもたらしている。
米国の自動車安全評価機関IIHSの調査では、アイサイト搭載車は負傷を伴う追突事故が85%低減するという結果が出ている。2024年にはアイサイト搭載のフォレスターが最新のIIHS前面衝突防止試験で、比較対象の10車種中唯一の最高評価を獲得した。
2022年6月時点での世界累計販売台数は500万台を超え、スバルの世界販売に占めるアイサイト搭載比率は約91%に達する。「ほぼ全車に搭載された安全技術」が、これだけの規模で実績を積み上げている。
スバルがステレオカメラの研究を始めたのは1989年のことだ。アイサイトとして市場に出た2008年の、実に19年前である。この間にADAという形で先行搭載も行われたが、「ステレオカメラだけで止まる」という命題を量産車で実現するまでに、それだけの年月がかかった。2022年時点でアイサイト搭載車が世界500万台を超えた事実を、あの1989年の研究室から見たらどう映るだろうか。
アイサイトはなぜステレオカメラ方式を採用しているのか
ステレオカメラは2つのレンズの視差から対象物を三次元的に認識できるため、歩行者・自転車・信号機など形のある存在の識別に強い。ミリ波レーダーが苦手な物体識別をカメラで補う設計だ。2020年以降はレーダーも4基追加されているが、ステレオカメラを主役に置く方針は変わっていない。
アイサイトXと通常のアイサイトの違いは何か
通常のアイサイトがカメラとレーダーによる周囲認識を担うのに対し、アイサイトXは3D高精度地図とGPSを組み合わせ、車線単位の道路情報を活用する。渋滞時のハンズオフ走行や車線変更支援など、より高度な運転支援を実現するオプション機能として位置づけられている。
アイサイトはどれくらい事故を減らしているのか
スバルが交通事故総合分析センターのデータをもとに算出した結果によると、2010〜2014年モデルでの追突事故件数は非搭載車と比べて約8割少なかった。米国のIIHSでは、アイサイト搭載車が負傷を伴う追突事故を85%低減するというデータが出ている。


