マツダコネクト 世代別の変遷と進化 タッチパネル廃止から最新世代まで
2013年から2026年まで4世代にわたるマツダコネクトの変遷を、設計思想の観点から解説する。タッチパネル廃止の理由から2026年型CX-5でのAndroid Automotive採用まで、各世代の判断の背景を追う。
マツダコネクトの最新世代は、15.6インチのタッチスクリーンを持つ。スマートフォンと同じようにスワイプし、ピンチ操作でズームし、音声でAIに話しかける。
それ自体はめずらしい話ではない。ポイントは、マツダが2019年から2025年まで「タッチパネルは安全ではない」という設計哲学を対外的に明言し続けてきたことだ。
この記事では、2013年の誕生から2026年型CX-5の最新世代まで、マツダコネクトが各世代でどんな課題を解こうとし、どんな判断を下したかをたどる。スペックの変遷ではなく、設計思想の変遷として読んでほしい。
マツダコネクト誕生 コマンダーコントロールという選択
2013年11月、マツダは新型アクセラに「マツダコネクト」を初搭載した。7インチのセンターディスプレイと、センターコンソールに配置された「コマンダーコントロール」の組み合わせが、このシステムの核だった。
コマンダーコントロールとは、大きなロータリースイッチを中心に、よく使うボタンが周囲を囲む物理操作デバイスだ。左右への回転、上下左右へのチルト操作で項目を選び、押し込みで決定する。着想源はBMWが2001年に7シリーズへ採用したiDriveとされる。操作に慣れれば、目を画面に向けずとも感覚的に操作できる点が設計のキモだった。
普通に着座した姿勢で左手を落とした位置にダイアルがある。センタースタックの画面に腕を伸ばす必要がない。この設計思想の出発点は明快だった。「タッチスクリーンは運転中に使いにくい」という判断だ。
ただし、当初のマツダコネクトは出発点から躓いた。ナビゲーションソフトウェアにハンガリーのNNG社製を採用したところ、自車位置の精度が低く、遠回りのルート案内が頻発した。走行中にシステムがフリーズするケースも報告された。普及価格帯のアクセラに幅広く標準装備されたため、欠陥が大きな範囲に及んだ。
マツダは早期に対策を打つ。2014年に発売したアテンザ改良型から、ナビソフトウェアを日本のミックウェア製に切り替えた。さらに2013〜2015年生産の10万台を超えるアクセラとデミオには、本体アップデートを行うサービスキャンペーンを実施した。新車のナビが購入後にアップデート対象になるのは、当時の自動車業界では異例の対応だった。
苦い出発点だった。それでもマツダは、コマンダーコントロールという設計の根幹は変えなかった。
タッチパネルを廃止した第2世代 2019年MAZDA3の決断
第2世代のマツダコネクトは、2018年11月に世界初公開されたMAZDA3(国内では2019年5月発売)で登場した。8.8インチの横長センターディスプレイに拡大され、視認性が向上した。
そして、タッチパネルが廃止された。
この判断をマツダは安全性の観点から説明した。タッチスクリーンの操作は、腕を前方に伸ばす動作を強いる。腕が宙に浮いた状態では指先が不安定になり、狙ったアイコンを正確にタップするのが難しい。自然と画面を注視する時間も長くなる。コマンダーコントロールなら腕をセンターコンソールに置いたまま操作でき、視線を前方から大きく外さずに済む。
当時の自動車業界では、大型タッチスクリーンは先進性の象徴だった。テスラが17インチの巨大スクリーンを採用し、ボルボが物理ボタンをほぼ廃止したタッチ専用UIを発売した時代だ。マツダのエンジニアはそれらのトレンドに対し「安全性を犠牲にしてまで追従しない」という立場を公式の場で明言している。
代わりに変化したのはコマンダーコントロールの上面だ。タッチパッドが追加され、スマートフォンのように指でスクロールする操作が可能になった。また、ナビのフリーワード検索機能も新たに加わり、初代から指摘されていた操作性の課題に応えた。
ちょうど同じ時期、別の動きもあった。Apple CarPlayとAndroid Autoへの対応だ。2018年10月に行われたCX-5とCX-8の商品改良から、スマートフォン連携が搭載された。旧型車向けには「ソフトウェアアップデートとUSBポート部品の交換」で対応する方針が担当者から示され、後付けキットも展開された。タッチパネルを廃止しながら、スマートフォンの中身だけをインフォテイメントに取り込む。これがこの世代のマツダの答えだった。
12.3インチへの大型化と測位精度の強化
2022年のCX-60から展開したマツダコネクトはより一層進化した。センターディスプレイは上位グレードで12.3インチへと拡大され、標準グレードでも10.25インチが設定された。
ディスプレイが大型化するほどに、当初タッチパネル廃止を正当化した「腕を伸ばす操作性の問題」は一部解消されていく。実際、この世代からApple CarPlayとAndroid Autoの画面に限り、タッチ操作が許容されるようになった。コマンダーコントロールによる操作が基本であることは変わらず、あくまで条件付きの例外措置だったが、方針は少しずつ動いていた。
測位精度の面では、初代の苦い記憶を完全に払拭する進化が実現した。GPSだけでなく、ロシアの衛星測位システムであるグロナスと、日本の準天頂衛星システムであるみちびきを組み合わせることで、都市部や山間部でも自車位置の精度が大幅に向上した。初代で最も批判を集めた弱点が、約9年をかけて解消された形だ。
この世代は、コマンダー操作の哲学を守りながら、現実的な妥協点を探り続けた時期とも読める。タッチ操作を全否定するのではなく、「走行中は使わない」「スマートフォン連携の画面に限る」という線引きで折り合いをつけた。
コマンダーコントロールの廃止 2026年型CX-5が踏み越えた一線
2025年7月、マツダは欧州で新型CX-5を世界初公開した。日本市場には2026年に導入される予定だ。
新型CX-5のマツダコネクトは、これまでのシステムとまったく異なる。標準仕様で12.9インチ、オプションで15.6インチの大型タッチスクリーンを採用した。15.6インチはマツダ史上最大のセンターディスプレイとなる。
そして、コマンダーコントロールが廃止された。
基盤システムにはAndroid Automotiveを採用した。GoogleとOSレベルで統合されたシステムで、GoogleマップとGoogleアシスタントをシステムに直接内蔵する。ユーザーはスマートフォンを接続しなくても、車内でGoogleマップのリアルタイム交通情報を使い、音声でGoogleアシスタントに指示を出せる。Google Playから追加アプリをダウンロードする機能も持つ。またGoogleのAIアシスタントであるGeminiも、将来のOTA(無線通信によるソフトウェア更新)で対応予定だ。

操作UIはスマートフォンに近い。タップ、スワイプ、ピンチ操作が基本となり、カスタマイズ可能なホーム画面を持つ。「直感的でスマートフォンに似た使い勝手」という言葉が公式資料に明記された。2019年当時に廃止された理由であった「タッチ操作は危険だ」という主張は、この世代の資料には見当たらない。
ワイヤレスのApple CarPlayとAndroid Autoにも対応し、デジタルメーターには10.25インチのインストルメントクラスターが標準装備される。
12年間の変遷が示すもの
マツダコネクトの歴史を振り返ると、大きく3つの段階がある。
第1段階(2013〜2018年)は「正しい操作系を模索する時代」だ。ナビの品質問題を乗り越えながら、コマンダーコントロールという設計の骨格を確立した。
第2段階(2019〜2024年)は「タッチスクリーン否定を貫く時代」だ。MAZDA3での方針転換宣言から、CX-60での大型化まで、一貫してコマンダー優先の哲学を守った。スマートフォン連携はApple CarPlayとAndroid Autoという「外部に委ねる」方法で対応し、自社のUI哲学を守り続けた。
第3段階(2026年〜)は「Googleプラットフォームへの統合」だ。コマンダーコントロールの廃止は、マツダが単独のUI哲学を維持するよりも、Google主導のOSプラットフォームに乗ることを選んだことを意味する。競合がAndroid Automotiveを採用するなかで、独自路線を維持するコストと、グローバル競争力の確保を天秤にかけた結果だろう。
変わったものは多い。ただ、マツダが各世代で「運転中の人間とクルマの関係」を真剣に考え続けてきたことは変わっていない。コマンダーコントロールが消えた後、その哲学がどのような形で新しい操作系に宿るのか。それは2026年型CX-5が日本に届いてから確かめるべきことだ。
コマンダーコントロールの着想源とされるBMWのiDriveは、2001年に初代E65型7シリーズで登場した当時、「複雑すぎる」と酷評を受け、TIME誌の「史上最悪の50台」に初代iDrive搭載の7シリーズが選出されるほどだった。しかし20年以上が経ち、最新世代のBMW iDrive 9はJ.D. Power 2024年テクノロジー体験調査でBMWを業界3位に押し上げるまで進化した。操作系の革新は、いつも最初に批判を受ける。
マツダコネクトのタッチパネルはなぜ廃止されたのか
2019年のMAZDA3から採用された世代では、腕を伸ばしてタッチする操作が視線の分散と指先の不安定さを招き、安全性を損なうという判断のもとで廃止された。センターコンソールのコマンダーコントロールを中心とした操作系に一本化することで、ドライバーが前方に視線を保ちながら操作できる設計を追求した。
マツダコネクトにApple CarPlayとAndroid Autoはいつから対応したのか
日本国内では2018年10月のCX-5・CX-8商品改良モデルから対応が始まった。その後、MAZDA2は2019年モデルから対応し、旧型車向けには部品交換とソフトウェアアップデートによる後付けキットも展開された。
2026年型CX-5のマツダコネクトは何が変わったのか
2026年型CX-5のマツダコネクトは、12年間使い続けたコマンダーコントロールを廃止し、標準12.9インチ・オプション15.6インチのフルタッチスクリーンを採用した。基盤システムにAndroid Automotiveを採用してGoogleと深く統合されており、GoogleマップやGoogleアシスタントがシステムに直接内蔵される。


