ROADECT
ジャガー Type 00 完全解説 EV専業化の決断と100年の歴史
モデル4,580字

ジャガー Type 00 完全解説 EV専業化の決断と100年の歴史

ホンダがEV計画を縮小し、AFEELAが開発中止を発表した2026年3月。その逆風の中、ジャガーはEV専業ブランドへの転換を続けている。1922年創業のブランドが100年近い歴史を経てたどり着いたコンセプトカー「Type 00」の全貌と、その背景にある選択の意味を解説する。

2024年12月、マイアミ。毎年マイアミ・デザイン・ディストリクトで開催されるアートウィークの会場に姿を現した1台のコンセプトカーは、周囲の現代アートと並んでも違和感がなかった。ジャガーが「何も真似しない」という意味の「Copy Nothing」を新たな設計思想として具現化した「Type 00」だ。

それから1年余りが経った2026年3月、ホンダは北米向けEV3車種の開発中止を発表し、ソニーホンダモビリティはAFEELA全モデルの開発中止を公表した。EV市場の伸び悩みが欧米日のメーカーに揺り戻しを起こす中、ジャガーはあえてEV専業ブランドへの転換を続けている。その選択の意味を、100年近い歴史から解きほぐす。

ジャガー Type 00 サイドビュー
出典: Jaguar

ジャガーの歴史 スワロー・サイドカーからEタイプへ

1922年の出発点とJaguarの名の由来

ジャガーの起源は自動車とは縁遠い。1922年9月、英国コベントリーで若きウィリアム・ライオンズとウィリアム・ウォルムズリーが立ち上げた「スワロー・サイドカー・カンパニー」は、オートバイのサイドカーを製造する小さな工場だった。やがてオースティンの小型車をベースにカスタムボディを架装した「スワロー・ボディド・ビークル」が評判を呼び、1933年には自動車専業の「SS Cars」へと脱皮した。

「Jaguar(ジャガー)」という名が初めて登場したのは1935年。SS Carsが発売した2½リットル・スポーツサルーンのモデル名として使われたのが始まりだ。社名がSS CarsからJaguar Carsに変わるのはその10年後、1945年3月23日のことである。「SS」の2文字がナチス親衛隊(ドイツ語でSchutzstaffelの略)を想起させると懸念された終戦直後、ライオンズ自身が「他のどのブランドとも混同されない唯一の名前」として社名への採用を決めた。

Eタイプという事件

1961年3月15日、ジャガーは後の世界を変える1台を発表した。Eタイプだ。

3.8リットルDOHC直列6気筒エンジン、265PS、公称最高速度240km/h。数字だけ見れば当時としても並外れているが、Eタイプが語り継がれる理由はそこにない。前後独立サスペンション、リアをインボードに配置した4輪ディスクブレーキ、モノコックボディという設計の先進性と、空気を引き裂くように伸びるロングノーズのシルエットが、人々の感覚を書き換えた。「史上最も美しい車」と評したのはエンツォ・フェラーリだとされているが、その発言の真偽は定かではない。ただ、2004年にスポーツカー・インターナショナル誌が選んだ「1960年代のトップスポーツカー」で1位に選ばれたことは事実だ。生産期間は1961年から1974年、13年間に及んだ。

ジャガー Eタイプ シリーズ1 3.8リットル 1961年型
出典: Wikimedia Commons

フォードからタタへ

黄金期を過ぎたジャガーは経営難が続いた。1989年にフォードが買収し、XE・XF・XJ・F-TYPEといった現代のラインアップが整えられたが、フォード傘下でジャガーが利益を出したことは一度もなかった。

2008年6月、タタ・モーターズがジャガーとランド・ローバーをフォードから17億ポンドで取得した。当時のレートで約3,400億円に相当する金額だった。インドの自動車大手による英国高級ブランドの買収は当時の業界に衝撃を与えたが、タタの潤沢な投資がモデルラインの充実を可能にした。2013年1月にジャガー・カーズとランド・ローバーが正式に統合され、JLR(ジャガー・ランドローバー)として一体運営される現在の体制が生まれた。


2024年のリブランディング ジャガーは何をやめ、何を目指したのか

ラインアップの整理

2024年6月、英国バーミンガム郊外にあるキャッスル・ブロムウィッチ工場での生産が終了した。対象はXE、XF、F-TYPEの3モデル。オーストリアのマグナ・シュタイア工場で生産されていたE-PaceとI-Paceも、同年12月に生産を終えた。

これによりジャガーの現行ラインアップは実質的にF-Pace(SUV)のみとなり、一時的な空白期間に入っている。年間数万台規模のラインアップを捨てることで多くの雇用が影響を受け、英国内でも議論を呼んだ。

関連記事
GRスープラ 2026年3月生産終了。A90型の全改良と7年間の軌跡
モデル

GRスープラ 2026年3月生産終了。A90型の全改良と7年間の軌跡

Copy Nothing という思想

2024年末のリブランディングでジャガーが掲げた新スローガンは「Copy Nothing」だ。何も真似しないという宣言である。優雅さ・広さ・速さを意味する長年のスローガン「Grace, Space, Pace」に代わるこの言葉は、超高級セグメントへの移行を示すものでもある。

ロゴシステムも刷新された。ブランド全体を貫くリニアライン「ストライクスルー」、モダニズムにインスパイアされた対称性の「シグネチャーマーク」、過去と未来を融合させた跳躍するジャガーのシルエット「The Leaper」、そして「J」と「r」を対称形に組み込んだ「モノグラム」。デザインシステム全体が、かつての英国的上品さとは異なる、ミニマルで強さのある方向性を示している。

新しいジャガーが目指す競合は、ベントレーやランボルギーニ、あるいはフェラーリのGTモデルだと語られている。年間数万台を売る大衆高級車から、数千台の超高付加価値ブランドへ。販売台数が減ることを前提にした戦略だ。

ジャガー 新ブランドロゴ「The Leaper」リブランド発表
出典: Jaguar

ジャガー Type 00 コンセプトの全貌

マイアミアートウィークでの登場

2024年12月2〜3日、マイアミ・デザイン・ディストリクト。ジャガーが主催した展示会場の中核に、ジャガーの新たな姿が現れた。Type 00だ。

名称の「00」にはジャガー公式の説明がある。最初の「0」はテールパイプを持たないゼロエミッションを意味し、2番目の「0」は新世代ジャガーの起点を指す。公式には「car zero」と呼ばれる。

マイアミアートウィーク 2024 ジャガー Type 00 展示
出典: Jaguar

4ドア ファストバック GT の造形

Type 00は4ドアのファストバックGTだ。ロングボンネットから弧を描くように落ちるルーフライン、そしてボートテールのように絞り込まれたリア。正面から見れば幅広く構え、横から見ると水平に伸びる。アール・デコのプロポーションをEVのボリュームで再解釈した形とも言える。

23インチのアロイホイール、バタフライドアと呼ばれる上方に開くドア、リアガラスのないパンタグラフ式テールゲート、そしてリアバンパーを横断するグラフィックテールライトが特徴だ。発表時に公開された2色は、アール・デコにインスパイアされたローズ系の「マイアミ・ピンク(Satin Rhodon Rose)」と、1960年代のオパールシルバーブルーを参照した「ロンドン・ブルー(Inception Silver Blue)」だ。型式名を持たない色名としても話題になった。

スペックと量産への道

Type 00は量産車ではなくコンセプトカーである。発表されたスペックは量産版の目標値として提示されたもので、最大出力は750kW(約1,000PS)超、WLTP規格での航続距離は最大770km、急速充電では15分で321km分の電力が補充できるとされている。プラットフォームはジャガーが新たに開発したJEA(ジャガー・エレクトリック・アーキテクチャー)専用設計だ。バッテリー容量は未公開。

量産版の4ドアGTは英国バーミンガム近郊にあるJLRの主力拠点ソリハル工場での生産が予定されており、2025年後半に正式発表とされていたが、2026年3月現在、JLRからの正式発表はまだ出ていない。その後にラグジュアリーSUVとグランドラグジュアリーサルーンが続く計画とされている。


EV専業という選択 ホンダとAFEELAの動向と比較して考える

ホンダが踏み出した一歩後退

2026年3月12日、ホンダは北米向けに計画していたEV3車種の開発・発売中止を公式に発表した。Honda 0シリーズのセダンとSUV、そしてアキュラのクロスオーバーだ。EV市場の成長鈍化と補助金制度の見直しが理由とされ、2030年のEV販売目標は30%から20%に引き下げられた。代わりに次世代HEVプラットフォームへの集中が打ち出され、EV投資の削減額は3兆円に上る。

同月25日には、ソニーとホンダの合弁会社であるソニーホンダモビリティが、AFEELA 1および第2弾モデルの開発・発売を全面中止すると発表した。ラスベガスで毎年開催される家電・技術の国際見本市CESで2026年1月にセカンドモデルを披露してから、わずか2か月後のことだった。ホンダが提供予定だった技術と資産の活用が困難になったことが直接の引き金だと、発表文には書かれている。

ジャガーという逆張り

この流れの中で、ジャガーはEV専業に向けてアクセルを踏み続けている。

ただし条件が異なる。ホンダのEV計画は年間数十万台規模の量産ビジネスだった。ジャガーが目指す超高級セグメントは、年間数千台での成立を前提とする。絶対数が少ないゆえに、規模経済よりも「1台あたりの付加価値」を競う土俵だ。テスラや中国EVメーカーとの価格競争に巻き込まれるリスクが相対的に低い領域でもある。

EV技術については、超高級帯においても充電インフラの整備状況やバッテリー重量の問題が残る。ジャガーが想定する顧客層は別荘を持ち、複数台を所有する層であり、充電の利便性に対する許容度が高いとJLRは判断しているようだ。この前提が正しいかどうかは、量産モデルの市場投入後でないと検証できない。

関連記事
BMW 新型i3 — 航続900km・400kW充電で登場した電動3シリーズの全貌
ニュース

BMW 新型i3 — 航続900km・400kW充電で登場した電動3シリーズの全貌

残るリスクと可能性

ブランドイメージの転換は、スペックや価格設定より難しい。「英国の高級スポーツセダン」というジャガーへの認識を「超高級EVブランド」に塗り替えるには、Type 00のような概念提示に加え、実際に走る量産車が問われる。XEやXFを愛したオーナーたちの多くは、新しいジャガーの顧客にならない。その空白をどう埋めるかは、まだ答えが出ていない。

一方で、「Eタイプ以来の大転換」として世界中のメディアが取り上げたことは事実だ。ジャガーという名前が再び語られるようになった。注目を集めることと、ビジネスとして成立することの間には距離があるが、注目なくして超高級ブランドは存在できない。

関連記事
フェラーリ アマルフィ スパイダー——640PS V8搭載の新型オープンGT
ニュース

フェラーリ アマルフィ スパイダー——640PS V8搭載の新型オープンGT

ジャガーのイメージイラスト

ジャガーEタイプのボディデザインと空気力学を担当したエンジニア、マルコム・セイヤーは、ブリストル飛行機会社での勤務経験を持つ。航空機の流線形化の原理を自動車のボディ設計に応用した先駆的なエンジニアのひとりであり、「風洞実験を経た自動車の形」という概念が一般に広まる前に、セイヤーはそれをEタイプで実現していた。

ジャガー Type 00 はいつ発売されるのか

Type 00はコンセプトカーであり、それ自体は市販されない。量産版の4ドアGTは英国ソリハル工場での生産が予定されており、2025年後半に正式発表とされていたが、2026年3月現在、その発表は行われていない。

ジャガーがEV専業を選んだ理由は何か

JLRは超高級セグメントへの集中を判断した。年間販売台数を減らし、1台あたりの付加価値を高める戦略であり、量産EVビジネスとは前提が異なる。既存の大衆高級車路線では中国メーカーや他欧州ブランドとの競合が厳しくなると判断した可能性が高い。

ジャガーの「Copy Nothing」とはどういう意味か

2024年のリブランディングで掲げた新スローガンで、「既存のどのブランドの模倣もしない」という設計思想の宣言だ。ロゴシステム・デザイン言語・ターゲットセグメントすべてをゼロから再設計することを意味する。優雅さ・広さ・速さを意味する「Grace, Space, Pace」に代わる指針として打ち出された。