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自動車メーカーが造るワイン ランボルギーニ、アルピナ…クルマ好きの知らないブランドのもう一つの顔
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自動車メーカーが造るワイン ランボルギーニ、アルピナ…クルマ好きの知らないブランドのもう一つの顔

ランボルギーニ創業者のワイナリー、ALPINAのワイン商事業、スズキのトカイワイン直輸入。自動車メーカーとワインの意外な縁を紐解く。

スーパーカーのメーカーがワイナリーを経営している。チューナーの創業者がヨーロッパ有数のワイン商を営んでいる。クルマの世界と葡萄畑は、一見すると遠い場所にあるように見える。しかし実際には、複数の自動車ブランドがワインと深い関わりを持ってきた。その背景には、クルマ造りと同じ「品質への執念」や、人生の選択としての農業への回帰があった。

フェルッチオ・ランボルギーニが農業に帰った日

ランボルギーニの創業者フェルッチオ・ランボルギーニは、農家の息子として生まれた。第二次世界大戦後に農業機械の修理から事業を起こし、トラクターメーカーとして成功を収め、さらに高級スポーツカーの製造へと歩みを進めた人物だ。

その彼が、1960年代後半にイタリア中部ウンブリア州を旅していたとき、トラジメーノ湖南岸の風景に心を奪われた。古い中世の村パニカーレを望む、起伏のある土地。「厳しくも優美な」その景色に恋に落ちたと、後にフェルッチオ自身が語っている。1968年、彼はその土地を購入した。

テヌータ・ランボルギーニのエステート(ウンブリア州パニカーレ)。ブドウ畑とリゾート施設を望む
出典: Tenuta Lamborghini

自動車事業は1972年に51%を、1974年に残り49%を売却し、フェルッチオは経営の第一線を退く。そして彼が向かったのは、農業という原点だった。取得から数年後に本格的な葡萄栽培を開始。100ヘクタールの土地に、サンジョヴェーゼやメルロ、グレケットを植えた。ウンブリア州のコッリ・デル・トラジメーノに位置するこのエステートは、現在「テヌータ・ランボルギーニ」として知られている。

フェルッチオの逝去後、経営は娘のパトリツィア・ランボルギーニが引き継いだ。1990年代に入り、彼女は父の夢だった高品質ワインの実現に向けて、イタリアを代表する醸造コンサルタント、リカルド・コタレッラを招いた。コタレッラは1997年から監修を担い、品種の植え替えや醸造技術の刷新を主導した。

現在のフラッグシップワインは「カンポレオーネ(Campoleone)」。サンジョヴェーゼとメルロをそれぞれ半量ずつブレンドした赤ワインで、アルコール度数は14度。凝縮した果実味とスパイシーさを持ち、長期熟成を前提に設計されている。ウンブリア州産ワインの産地呼称IGT(地理的表示保護)を取得し、日本でも2万円前後で流通している。

テヌータにはワイン以外に、9ホールのゴルフコースとリゾート施設も備わっている。ランボルギーニという名前が持つ「凝縮された情熱」は、スーパーカーから葡萄畑へと形を変えながら続いている。

日本市場では「ランボルギーニのシャンパン」として紹介されるスパークリングワインも流通しているが、シャンパーニュ地方(フランス)産のシャンパンではなく、北イタリア産のスパークリングワイン「プロセッコ」や通常のスパークリングワインである点は押さえておきたい。

テヌータ・ランボルギーニ フラッグシップワイン「カンポレオーネ」ボトル
出典: Lamborghini Wine

ALPINAがはじめた、もうひとつの事業

BMWをベースにした独自モデルを少量手作りで製造し、「BMWとは別のクルマ」として評価されてきたアルピナ(ALPINA)。バイエルン州ブッフローエに拠点を構えるこのメーカーは、クルマ好きの間でよく知られた存在だ。しかしそのアルピナが、もうひとつの事業を1979年から営んできたことは、あまり知られていない。

創業者ブルカルト・ボーフェンジーペンがはじめたワイン販売事業「ALPINA WEIN」だ。

1960〜70年代、ボーフェンジーペンはアルピナのクルマとともにヨーロッパ各地のレース場に出向き、レース活動を通じてイタリアやフランスのワイン産地とも縁を深めた。現地でワインを買い込み、レーシングトランスポーターをワインで満載にして帰国するという逸話も残っている。ワインへの熱量は、やがて個人の趣味の領域を超えた。

ALPINA WEIN(アルピナ・ヴァイン)のバイエルン州ブッフローエ事業所
出典: ALPINA WEIN

1979年に設立されたALPINA WEINは、ワインを生産するのではなく、世界の高品質なワインを輸入・貯蔵・販売するワイン商だ。最大の特徴は、その在庫の深さにある。100万本以上のワインを温度管理された蔵に保管し、中には10年・20年・30年以上の熟成ビンテージが並ぶ。ドイツ国内でこれほどの深度を持つワイン商は他にない。

特筆すべきは、イタリアの名門ワイナリー、アンティノリ(Antinori)のスーパートスカーナ「ティニャネロ(Tignanello)」の独占輸入権を直接交渉で獲得したことだ。ティニャネロはサンジョヴェーゼにカベルネ・ソーヴィニヨンをブレンドした革命的なワインで、1971年の初リリース以来、イタリアワインの歴史を変えた銘柄として知られている。そのような存在に対して、ボーフェンジーペンは情熱とスタンスで交渉し、独占権を手に入れた。

創業時12名だった従業員は現在約300名。ドイツ全土の約1,000の高級レストランやホテルに供給し、1980年代には日本へも販路を拡大した。アルピナのクルマ事業と同じく、「本当に良いものを、妥協なく扱う」という哲学が、ワイン事業にも一貫している。

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「フェッラーリ」というワインが存在する理由

2021年から2024年、F1のポディウムで掲げられる大瓶に「Ferrari」と書かれていた。あれは自動車フェラーリではない。

フェッラーリ・トレント(Ferrari Trento)は1902年、ジュリオ・フェッラーリ(Giulio Ferrari)がイタリア北部のトレントで創業したスパークリングワインメーカーだ。ジュリオはフランスのシャンパーニュ地方で修業し、シャルドネの苗を持ち帰り、同じ伝統的製法でスパークリングワインを造ることを生涯のテーマとした。

ジュリオ・フェッラーリは1952年に高齢と後継者不在を理由として事業をブルーノ・ルネッリに譲渡し、1965年に逝去した。以来、ルネッリ家がフェッラーリ・トレントの経営を続けている。スポーツカーメーカーのフェラーリ(1947年創業、エンツォ・フェラーリ)とは創業者も創業地も時代も異なる、全くの別会社だ。

フェッラーリ・トレント(Ferrari Trento)スパークリングワイン クラシックライン
出典: Ferrari Trento

「フェラーリワイン」を話題にするとき、この二つが混同されることがある。現在フェッラーリ・トレントは、イタリアで最も評価の高いクラシックメソッド(シャンパン製法)スパークリングワインのひとつとして、国際的な地位を確立している。

スズキがハンガリーワインを運ぶ理由

1991年、スズキはハンガリー政府との合弁で「マジャール・スズキ(Magyar Suzuki)」を設立し、同国での自動車生産を開始した。その同じ年の11月、ハンガリーワインの日本への直輸入・販売も始まる。

背景にあったのは、スズキが持っていた一つの方針だった。

「スズキの製品を輸出している国から、逆に日本へも輸入できるものがあれば積極的に取り組む」。

ハンガリーは自動車の製造拠点になっただけでなく、世界有数のワイン産地でもある。現地の特産品として白羽の矢が立ったのが、ワインとアカシア蜂蜜だった。

スズキが特に力を入れてきたのが、トカイ地方産の「トカイ・アスー」だ。フランス・ソーテルヌ、ドイツ・トロッケンベーレンアウスレーゼと並ぶ「世界三大貴腐ワイン」のひとつで、ルイ14世が「ワインの王にして王のワイン」と称えたとされる歴史的銘酒だ。ボトリティス・シネレア菌(貴腐菌)が葡萄を干しブドウ状に変えた果粒だけを1日6〜7kgずつ手摘みするという、気の遠くなるような工程で造られる。

グランド・トカイのワイナリー風景。トカイ産ワインの約40%を生産するハンガリー最大のワイナリー
出典: ESSENCIA / Grand Tokaj

主な取引先のひとつが「グランド・トカイ(Grand Tokaj)」だ。トカイ産ワインの約40%を生産するハンガリー最大のワイナリーで、500年以上前から掘り続けた全長5kmの地下セラーを持ち、40ヶ国以上に輸出している。

2002年9月、スズキのワイン事業は子会社のスズキビジネス株式会社に移管された。現在はECサイト「ESSENCIA(エッセンシア)」を通じて、ハンガリー全土11産地のワインを直輸入・販売している。ハンガリーの自動車工場建設から始まった縁が、ワインという形で日本の食卓へとつながっている。

ALPINAはヨーロッパのレース場でワインを積み込むところから事業を始め、スズキはハンガリーへの自動車工場進出をきっかけにワインの輸入を始めた。前者は個人の情熱から、後者は経営判断から。自動車メーカーがワインへと向かう道筋は、そのブランドの性格そのものを映している。

ランボルギーニのワインはどこで買えるか

テヌータ・ランボルギーニの公式サイト(tenutalamborghini.com)から直接購入できるほか、日本国内のワイン専門店や一部の輸入商社でも取り扱いがある。フラッグシップの「カンポレオーネ」は日本で2万円前後で流通している。

ALPINAはワインを製造しているのか

ALPINAはワインを製造しているのではなく、輸入・販売を行うワイン商として事業を展開している。1979年に創業者ブルカルト・ボーフェンジーペンが設立した「ALPINA WEIN」が主体で、100万本以上のワインを在庫として保有する欧州有数のワイン商だ。

フェラーリのワインは自動車フェラーリが作っているのか

「フェラーリ」ブランドのスパークリングワインを製造するフェッラーリ・トレント(Ferrari Trento)は、自動車メーカーのフェラーリとは無関係の別会社だ。1902年にジュリオ・フェッラーリが創業したイタリア北部トレントのワイナリーで、現在はルネッリ家が経営している。

スズキのワインはどこで買えるか

スズキビジネス株式会社が運営するECサイト「ESSENCIA(エッセンシア)」(hungary-wine.com)で購入できる。ハンガリー全土11産地の約60種類のワインを取り扱っており、3,740円前後から購入可能だ。